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「レッドタートル ある島の物語」マイケル監督×鈴木敏夫インタビュー 東洋的視点が織り込まれたフランス制作の長編アニメ

2000年に公開され、アカデミー賞短編アニメーション映画賞を受賞するなど世界中で絶賛された『岸辺のふたり』(原題:『Father and Daughter』)。監督は、オランダ生まれのマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット。

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ーー『レッドタートル』はセリフがほとんどないというのも衝撃的でした。最初は少しセリフを入れるつもりだったそうですが、どのような経緯でセリフをなくしたのでしょうか。

マイケル
最初は、少しでもセリフを入れるつもりでした。説明がないと分からないであろうシーンがいくつかあったのと、登場人物たちが人間だと証明するためにもしゃべらせたかったんです(笑)。仮編集の映像を作った時、私たちスタッフが下手なりに声を当ててみました。その映像を見た時、なぜかしっくりこなかったんですよね。私たちの演技が下手だからだろうと思っていたんですが、ジブリさんから「セリフはなくてもいいのでは」と言っていただいた。それを聞いて、すごくスッキリしたんですよね。それまでセリフを多く書いたり減らしたりと試行錯誤していたのが、セリフをすべてなくしてしまうという案を聞いて「それだ!」と思えたんです。

ーー言葉はないけれど、ときおり呼吸が聞こえたり、言葉にならない叫びのようなものは入っていますね。

マイケル
実はこの映画の最初から最後まで、プロの声優さんに呼吸をしてもらった音声を乗せているんです。走った後など息がハアハアしている時は呼吸がよく聞こえるし、全く聞こえないところもあります。呼吸を人物の絵に合わせることで、その人物に伝えたい何かがあることが、見ている人に通じるんじゃないかと思って。呼吸でありながら、心の言葉としても表現しているんです。

ーーセリフをなくすことについて、ジブリ内ではどのような話し合いがされたんでしょうか。

鈴木
高畑さんは、誰かの作品に自分が協力する時、監督がやろうとすることを手助けするんです。セリフについての話し合いの時、高畑さんは「それはマイケルが決めることだから」と言っていた気がしますね。プロデューサーである僕の意見を述べると、セリフの有無で決定的に違うものを感じたんですよ。それは、セリフがないととても詩的に見えるということ。逆にセリフがあると、現実に戻されてしまう(笑)。僕が一番「セリフがない方がいい」と主張していたし、でき上がった作品を見た時も、サウンドをもっと減らしてもいいと思ったぐらい。無音なら、見る人が自分で考えるようになる。それがこの映画のエンターテイメント性だと思ったんです。


ーー他の作家にはないマイケル監督ならではの特色は、どんなところだと思われますか。

鈴木
西洋の人でありながら、東洋人に近い考え方を持っているところ。東洋に対する理解が深いです。フランスでも日本でもヒットできる作品が作れるだろう、という目論見もありますが(笑)。

ーー東洋的視点があるかないかで、作品の持ち味が変わってくるということですね。

鈴木
全然違うと思いますね。例えば日本では先祖崇拝、死んだ人が自分たちを見ているという感覚があるでしょう。これって東洋的だと思うんです。それに近いことをマイケルは『岸辺のふたり』でやっていた。『レッドタートル』を作るにあたっても、それをちょっと期待したところはありましたね。

ーー私はこの映画を見て、浦島太郎や鶴の恩返しといった日本の昔話を思い出しました。人間の一生を描くことでリアルを感じると同時に、そういった寓話性も兼ね備えているように感じたのですが。

マイケル
それはまさに狙った通りです。このストーリーを書き始めて少しした頃、日本には浦島太郎という有名な寓話があると聞かされて、私もびっくりしたんです。さらに高畑さんがラフカディオ・ハーンの『怪談』の本をプレゼントしてくださり、それを読んで衝撃を受けました。自分の作品の中で寓話性、ファンタスティックというのはとても大事な要素です。『レッドタートル』はリアルな人生の物語ではあるんですが、子供の頃から蓄積した読書体験が表れることは、意図したところでもあるし、自然に出てきた部分でもあると思います。子供の頃の読書体験はとても大切ですよね。私が人生で一番影響を受けた本は『オデッセイ』ですから。

ーー最後に、マイケルさんはジブリと共同制作したことでどんな影響がありましたか。

マイケル
仕事のやり方ですね。実際にスタジオジブリに行って一番印象に残ったのが、スタジオ内のいろんなところにイマジネーションが溢れていることでした。フランスのスタジオでは、OKカットとまだOKが出ていないカットの区別はただ○と×で仕分けしていますが、スタジオジブリではちょっとしたイラストやコメントが加わっているんです。そういった遊び心、心遣いみたいなものにとても影響を受けました。それに私は今まで、チームで作品を作ることは無理だと思っていたんです。私はいつもすごく迷って、OKを出したものをまた無効にして最初から作り直したり、とにかく躊躇して迷いながら作品を作るんですね。でもスタジオジブリは、それも別にいいじゃないかと受け入れてくれました。ヨーロッパでは絶対に受け入れてもらえないやり方ですが、悩んでもいいんだと思えたことが、とてもありがたかったのです。

鈴木
マイケル監督自身、絵が描けるでしょう。彼の作風からしてすごくストイックな人だから、アニメーター全員をクビにして、ひとりで描き出すんじゃないかっていう不安が、僕の中に少しありました(笑)。こう見えてとても厳しい人なんですよ。メイキングの映像で見たんですけど、平日にアニメーターたちが描いた絵を、週末の土日にマイケルひとりで直していたんです。その間は家に帰れないから奥さんとも会えない。それぐらいのことをやるんじゃないかという不安はちょっとありました。

マイケル
おっしゃる通りで、ひとりでやりたくなるかもしれないという不安は、私自身も持っていました(笑)。今回初めてチームを組んで作品を作ったので、アニメーターさんの個性を全然知らないまま仕事に入ってもらったのです。次の作品ではアニメーターさんたちの個性をさらに把握してから作ることになるでしょうから、きっと全然違うものができると思いますね。『レッドタートル』も含め、これからも応援よろしくお願いします。

《大曲智子》
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