『ガンダム Gのレコンギスタ』における「線」を巡る冒険:吉田健一氏、脇顯太朗氏が語る 第1回  2ページ目 | アニメ!アニメ!

『ガンダム Gのレコンギスタ』における「線」を巡る冒険:吉田健一氏、脇顯太朗氏が語る 第1回 

『ガンダム Gのレコンギスタ』における「線」を巡る冒険:吉田健一氏、脇顯太朗氏が語る 第1回 藤津亮太氏による全4回の連載。

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■ 線に色が混じるアナログなおもしろさ

――そうなんですか。脇さん、まだお若いですよね?

脇 
25歳です(笑)。僕は特に'70~'80年代ぐらいのちょっと荒めな、フィルム感が強いセルアニメが好きで。でも、業界に入った時はもう今の硬い印象の画面が普通になっていて。昔の映像を見ると、普通に撮影でカシャカシャ撮ってただけなのに、すごく柔らかくて。手で作っている感じがあって、画面自体があったかい感じがするんですよ。デジタルではそれがない。
これまで撮影として、デジタル的な工夫を要求されることが多かったんですが、今回は『ガンダム』だし、『G-レコ』だし、なんか新しいことできないかな、いや挑戦すべきだろうということで、今までとは違う、単なるデジタルアニメの絵にしたくないところからスタートしました。

――素朴な質問ですけれど、どちらの処理も既存のものを応用したとかそういうことではないんですよね?

脇 
そうですね。今回用に自分で開発した処理になります。

吉田 
脇さんの、その処理を、キャラにもメカにも2つ合わせてかけてみた時に、僕が気がついたことがあって。線がカーボントレス調に荒れた感じになるのもおもしろかったんですが、もっとおもしろいと思ったのは線に色が混ざることなんです。

――線に色がまざる? どういうことでしょうか?

脇 
見てもらったほうが早いと思って、持ってきたんですよ。
(……といいつつファイルからセル画を取り出す)

吉田 
『BIRTH』じゃないですか!(笑)。

脇 
そうです(笑)。資料用に使っていたんで汚いんですけれど、このセルのトレス線を見てください。セルってトレス線でセル絵の具がせき止められるようになっているわけですけれど、止めきれずに色が線の中に入り込んできているんですよね。

――ああ。熱転写されたカーボンの粒子の間に、セル絵の具が滲み出してることで、線にうっすら色がついているように見えていますね。

吉田 
そうなんですよ。そうだから、髪の毛の上に乗った線は、やっぱ髪の毛の色に少し同化しつつあるし、肌の色に塗ると肌の色が少し混ざる。しかも、その混ざり具合は一定ではない。デジタル化されると、色と色の境界線がバッキリ出過ぎて、セル時代からの描き手としては違和感があったんです。

脇 
線がちゃん出すぎてて、コントラストが強すぎるよねっていう話はしてましたね。

吉田 そこを、この処理で技術的に突破できるんじゃないかって思ったんです。僕の線が少し柔らかいタッチのついた線なので、『G-レコ』では、動画さんにそこを念頭において拾ってくださいとはお願いはしてます。でも、そういうのはほかの作品でもあることなので、個別の努力目標という感じで。それとは別のアプローチで線の持つニュアンスをこれで変えられるんじゃないかと思ったんです。

■ 「たまにはこういう絵もあっていいんじゃない?」

――セル画のアナログ的なテイストを撮影処理でシミュレーションするような感覚ですね。

脇 
そうですね。あと、やろうとしたことに色トレスの線があります。セル時代の色トレスはセルの面に引いてあるんです。たとえば、影の部分の境界線はセルの表面に色トレスの線があって、セルの裏側で塗り分けられている。そうすると面にある色トレスの線はちょっと明るい色になる。それを再現しようとしたら……(笑)。

吉田 
それは阻止したんですけど(笑)。「そこまではいいや」って。

――(笑)。素朴な質問ですけど、撮影処理を加えた後に線が途切れたようになっているところも、元の動画では繋がっているんですか?

脇 
繋がっています。

吉田 
最初は、キャラクターもメカも、油彩処理をかけて色が揺らぐ感じだったんですが、キャラに関しては、それを線だけにできないかっていう話を脇さんにしました。メカのほうは全体に油彩処理をかけていて、セル絵の具で塗った時の塗りムラっぽい感触が出るようになっています。

脇 
そこはちょっとねらった感じはあります。やっぱり同じRGB値で均一に塗られちゃうのが気になっていたので。

吉田 
あと、僕が今回の脇さんの提案を面白いと思ったのは、1コマ1コマこういう処理をかけたとして、仕上がりがいつも同じになるというわけではないというのもあるんです。1コマ1コマの仕上がりが違うことによる違和感や偶然性みたいなものが、ある。デジタルの技術にしては珍しいことだなと。

脇  
実際に撮影している時の処理に関しては、吉田さんがおっしゃる通り、仕上がりに差があるんです。それで「これはあまりに描き手の線がつぶれすぎちゃってるから効果を弱めよう」とか、1カットごとに見やすさを調整してるんです。ただその時に、常に“100”にしなくちゃいけない、っていう方向で調整するんじゃなくて、たまに“120”のカットがあったり、時に“75”のカットがあってもいいような、もともとのカットが持っていたムラを残す方向で調整してるんです。「たまにはこういう絵もあっていいんじゃない?」っていうような感じで。
《藤津亮太》
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