設立から60年以上、国内最大手のアニメ制作会社東映アニメーションは、老舗と評されることが多い。実際に、戦後日本のアニメ産業を牽引して来た代表企業であると言って間違いない。 しかし、そうした表現でしばしば隠されてしまうのは、同社が設立以来取り組んできた挑戦的な試みだ。劇場長編フルアニメーションからテレビアニメーションへの中核事業の大胆な変更やロボットアニメのマーチャンダイズ導入、近年のモバイル事業への進出などである。現在、海外で人気とされる日本アニメの普及に同社が1970年代以降果たして役割も大きい。 森下孝三氏が2010年11月に上梓した「東映アニメーション演出家40年奮闘史」は、そんなこれまで見落とされがちだった東映アニメーションのベンチャー的な側面が目一杯盛り込まれた一冊だ。本書は、1970年に東映動画(現東映アニメーション)に入社、現在は取締役副社長という重任にある森下氏の40年にも及ぶ経験を辿るものでだ。 個人の物語であると同時に、同氏がその中にいた東映アニメーションと日本のアニメ業界40年の歴史を描くものでもある。それは戦後日本の商業アニメ創成期から成長、さらに海外での人気獲得まで時代ごとの作品によって語られる。 具体的なエピソードが多く、アニメ業界の裏話的な側面もある。とりわけ日本アニメの海外展開に関心がある身には、米国向けの作品『トランスフォーマー』の演出におけるエピソードは海外と日本との協業を考えるうえで非常に興味深いものだった。 しかし、通常であれば平坦になりがちな一代記を盛り上げるのは、そうした人気アニメのエピソードだけではない。森下氏自身の魅力的はキャラクターにも多くを負っている。 現在でこそ『聖闘士星矢』や『ドラゴンボール』を手掛けた監督、プロデューサーとして広く知られる森下氏だが、本書によれば尖った個性の森下氏は入社当初はうえから避けられることも多かったようだ。そうしたなかで次第に頭角を現して行く姿は、ドラマとして読んでも面白い。そして、異端児であるがゆえに新しい仕事を次々手掛けることが、森下氏に仕事歴に彩りを与える。 長い年月で、同氏は演出からプロデューサー、さらに経営陣へとキャリアを変えて来た。しかし、アニメを創り出す情熱はいつでも同じ様だ。むしろ、ディレクターからプロデューサーに転属になったことをショックだったと語ってはいるものの、森下氏のなかではアニメを作るという点ではこれらは全て同じ領域にあり違いはないように感じられた。 そうであればこそ、現在副社長を務める森下氏が、2011年5月28日公開の『手塚治虫のブッダ-赤い砂漠よ!美しく-』の監督を自ら務めることにも納得出来るのだ。『演出家40年奮戦史』は、戦後日本のアニメ史を知るために外すことの出来ない本だ。[数土直志]『東映アニメーション 演出家40年奮闘史アニメ「ドラゴンボールZ」「聖闘士星矢」「トランスフォーマー」を手掛けた男』森下孝三 (著)一迅社定価 1400円+税
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