「舞台版イナズマイレブン」 レビュー | アニメ!アニメ!

「舞台版イナズマイレブン」 レビュー

白状すると、私は「イナズマイレブン」のファンではなかった。というよりも、何の予備知識もなしに私はこの舞台を観た。結果…かどうかはわからないが、やはりライブパフォーマンスはイイ!

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by ロミ

白状すると、筆者は「イナズマイレブン」のファンではなかった。というよりも、何の予備知識もなしに筆者はこの舞台を観た。結果…かどうかはわからないが、やはりライブパフォーマンスはイイ!と素直に感じることができた。今ではすっかり「舞台版イナズマイレブン」のファンである。

平面的で広いサッカーフィールドをどうやって舞台で再現するのか―?それが舞台を目にする以前に筆者が抱いた疑問だった。その答えは「空間を3次元的に利用する」にあった。公演の行われているGロッソはヒーローショー専用の劇場、思った以上の立体ステージとなっている。奈落などの設備も充実しており、これなら存分に超次元サッカーが展開できる。さらに、平面を立体に見せるということは、観る側の想像力によって補うことが不可欠であり、つまりこの舞台を楽しむには、観客の「協力」が必要となる。

本作の主人公・円堂が必死に足りない部員数を集めるために勧誘する場面でも言っているが、サッカーは世界中で最も競技人口の高いスポーツであり、言葉のわからない相手でも一緒にプレイできる。万国共通語とも言えるほど皆が知っているサッカーだからこそ、広いフィールドを舞台上でそのまま再現せずとも、ボールを追ってシュートが決まるか決まらないかで試合内容を把握できるのだ。
ステージの構造については、/ゲネプロレポートに詳しいので割愛するが、シンプルなため一見シュールに見える。ただし、下手に大道具に凝ってしまうと、せっかくのキャラクター再現度が目立たなくなってしまうだろうし、背景も含めての総合的な「似てる・似てない」になってしまうので、これが正解だろう。おそらく子供たちには、ゲームやアニメで親しんだ練習場やスタジアムの背景が心の目で見えるに違いない。
しかし役者さんたちも大変である。3次元舞台を上下左右しての芝居(カツラなどで視界が狭くなりながら、そのキャラになりきる役作りも含む)、他にも歌って踊って、飛び降りたり宙返ったり、ワイヤーに吊られたり…等々、とにかくアクション目白押しなのである。これなら子供達も大喜びに違いない。(一緒に観に来ていたお父さんたちも「凄かったなー」と感想を漏らしていた。)おまけに最後には、意表をつく「大技」が待っている。
そしてほとんどの観客の方は、やはりキャラクターがどれだけ忠実に再現されているのかが気になるところだろう。その肝心の再現性だが、その半端なさは/稽古レポートにもある通りである。
サッカーは11人揃わなければできないため(ライバルの帝国学園側が5人しか登場しない、というのはこの際置いておく)舞台の上には必然的に人数が多くなる。だが、それぞれがきっちりとキャラ立ちしている。円堂の絶えることのない笑顔、あくまでポジティブな性格は、さすが弱小チームを引っ張っていくだけのキャプテンだけある。原作の円堂の様子を想像できる。クールな豪炎寺も、原作では寡黙でありながら、優しい妹思いの性格であることがうかがい知れる。筆者は原作をあまり知らないのだが、個々のキャラクターの特徴がハッキリしているため、誰がどんな性格なのか、何を動機として動いているのかが把握しやすかった。
このようにキャラクターのバックグラウンドや心の葛藤の描写などをきっちり押さえているため、ドラマも子供がわかるようなシンプルなつくりながら、しっかりしている。友情や裏切り、家族愛が描かれており、親御さんたちも楽しめるだろう。単なる勧善懲悪ではない。(そもそもサッカーに善悪があるのかは疑問だが、影山総帥は策略家のワルである。)
さらにドラマ上の長い会話シーンでは、段差のある舞台を活かして背景でサッカー練習を行うなど、ステージ上では常に何かが動いている、という工夫がなされており、小さいお子さんが飽きてしまうようなこともなさそうだ。逆に「目が忙しい」という感想があるほどで、リピーターとなって次はこっちのこのキャラを集中して観てみよう、という公演に通う動機づけになりそうである。ただし、ドラマ上重要なシーンでは、演技に集中できるように舞台上のキャラクターたちも観客と一緒に事の運びを見守る、という連帯感を感じる機会もある。
所詮は荒唐無稽な世界観のゲームやアニメが原作、とたかをくくるところを、逆にあれだけ「これってサッカー!?」と、その一見ギャグかとも思える内容(そもそも球技に“必殺技”があっていいのか?という疑問がよぎる)に真っ向から取り組み、エンターテインメントに昇華させた手腕にただただ脱帽である。考え抜かれた演出には、役者さんのみならず、脚本家や演出家の方々がこの作品を理解し、そのエッセンスをいかに2Dから3Dに移すか、苦心されたであろう。だが、逆にこれくらい派手な演出で見せないと、見栄えがしない。「イナズマイレブン」の名がすたってしまう。
そしてやはり、「イナズマイレブン」といえば大仰なアクションである。筆者は本物のサッカーボールを実際に蹴っていることからして驚いた。(試合のシーンでは演出上エアボールに切り替わるのだが。)さらにワイヤーアクションもこなせる若い俳優たちが、必殺技を披露してくれる。この最大の見所とも言える必殺技が、観ている側を「決まるのか?失敗するのか?」とハラハラドキドキさせる。ライブである以上、ともすれば失敗する可能性だってあるのだ。だがこれこそが、ライブパフォーマンスならではの興奮だろう。

つまりは、こうしたことすべてが、結果として総合的に演じる側と観る側に一体感を生み出すことになっているように思う。役者さんは、観客席までやって来て「サッカーやろうぜ!」と呼びかけてくる。「G」「O」「O」「D」と一緒に字をポーズしたり歌うことを促したりもする。映画の中ではカメラ目線となるため不特定多数の観客に向かって語りかけるが、「舞台版イナズマイレブン」では目の前に登場人物がやって来る。「入部しないか?」と誘われれば、思わず「OK!」と答えたくなってしまう。そして観客は、いつのまにか雷門中サッカー部員を応援しながら心の中で一緒にサッカーをしているのである。まるでW杯で日本国中が湧きながらサムライジャパンを応援していたように。共通のキーワードは「あきらめない」だ。同様の熱気を筆者は観客席で感じることができた。

とにもかくにも、舞台の最初(開演前の注意事項の説明からすでにはじまっている)から最後まで、「イナズマイレブン」の世界観をどう再現しているのか、一見の価値ありである。ちなみに、幕が降りたからと言って早々に席を立つのはオススメしない。なぜなら、「今日の格言」が用意されているのだから。
一体感を持ちつつ味わう、それが「舞台版イナズマイレブン」の醍醐味だ。ぜひ、この超次元っぷりを劇場にてご堪能いただきたい。

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《animeanime》
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