映画評 『宇宙ショーへようこそ』 | アニメ!アニメ!

映画評 『宇宙ショーへようこそ』

映画評 『宇宙ショーへようこそ』 文; 藤津亮太(アニメ評論家) 児童文学の古典、アーサー・ランサムの『ツバメ号とアマゾン号』は、夏休みの子供たちが

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文; 藤津亮太(アニメ評論家)

 児童文学の古典、アーサー・ランサムの『ツバメ号とアマゾン号』は、夏休みの子供たちが無人島で10日あまりを過ごす“冒険物語”だ。この「子供たちだけの夏の大冒険」という題材はは非常に魅力的だから、『ツバメ号とアマゾン号』の昔から現在に至るまでさまざまに変奏され続けている(たとえば『スタンド・バイ・ミー』から劇場版『ポケットモンスター』まで)。そして『宇宙ショーへようこそ!』もまた、その系譜に連なる「子供たちによる夏の大冒険」ものの傑作である。
 監督と脚本は『かみちゅ!』の舛成孝二と倉田英之。どちらも本作で劇場デビューだ。
 物語は東伊豆あたりののどかな田舎の風景から始まる。この地域の小学校は、生徒が6年生から2年生までわずか5人。5人は超能力も親譲りの巨大ロボットも持っていない。あるのは、将来の夢、宇宙への好奇心、人を好きになる心ぐらい。つまりごくごく平凡な子供たちというわけだ。
 この5人が、夏休み恒例の合宿のために学校に泊まり込み、怪我をした一匹の犬を助ける。この犬こそ実は、アニマル星域のプラネット・ワンからやってきた宇宙人、ポチ・リックマンだった。ポチは、水先案内人となって子供たちを宇宙へと導いていく。

 本作のティーザーポスターは、山を背景にした5人の子供たち。いかにも“純朴で良心的なアニメ”風の絵柄だが、あれは一種の“撒き餌”。本作の魅力はむしろ、ポスターで描かれた日常的風景の重力圏を鮮やかに振り切り、ぐいぐいと誰も見たことのない異星の風景へと突入していく部分にある。
 ポチに導かれ、月の裏側の宇宙ステーションへ。そして思わぬトラブルの結果、さらにそこからプラネット・ワンへ。スタッフは旅の途中で子供たちが出会う、奇妙な(でも優しい)宇宙人と見慣れないアイテムに満ちた世界を丁寧に描いていく。okamaほかのプロダクションデザイナーたちが描き出した世界は、「緻密に構築された」というよりは「おもちゃ箱をひっくり返したような」と言ったほうがふさわしく、見ているだけで楽しい。月の裏の異星人たちのにぎわいや、銀河を行く宇宙列車の奇想、そしてタイトルにもなっている劇中番組「宇宙ショー」の華やぎを堪能してほしい。
 かくして子供たちは、見知らぬものへの驚きと喜び、巻き込まれてしまった冒険への不安を胸に、子供らしい喜怒哀楽を全身で現しながらにぎやかな宇宙を旅をしていく。ヒーロー然となったり、教訓を悟ったりしないところもいい。
 2時間を超える尺があり、その長さだけがややビジュアルに淫した結果かな、とも思わないでもない。が、それは些細な点だ。2時間ちょっとの宇宙旅行。子供たちと一緒に「小さな大冒険」を堪能すればそれでいい。
 迷っている人がいるならば、すぐさま劇場へ足を運ぶべきだ。

『宇宙ショーへようこそ』  /http://www.uchushow.net/
《animeanime》
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