『無限航路』に見るゲームとアニメの相乗効果 (2) | アニメ!アニメ!

『無限航路』に見るゲームとアニメの相乗効果 (2)

注目すべきプロモーションアニメの新トレンド
    『無限航路』に見るゲームとアニメの相乗効果

コラム・レビュー
注目記事
注目すべきプロモーションアニメの新トレンド
    『無限航路』に見るゲームとアニメの相乗効果


文:氷川竜介(アニメ評論家)

 プロモーションアニメは全4部に分かれ、物語的には「これぞまさしくスペースオペラの王道」とでも言うべき大河SFのイントロダクション部分を描いている。人類が銀河にあまねく拡がったはるかな未来、銀河の辺境惑星で暮らすユーリ少年が抱く宇宙へのあこがれから、この壮大なストーリーは幕をあける。
 妖艶な美女トスカに導かれ、「自分の宇宙船をもつ」という思わぬかたちで始まった冒険の旅は、やがて未知なる星の大海へと続いていく。多くの人との出会いや別れ、宇宙艦隊戦や理不尽な支配者との肉弾戦など、多彩な激闘の経験を通じて、ユーリと妹チェルシーは宇宙を変革させる謎の力『エピタフ』にまつわる自身の運命に気づいていく……。
 希望を乗せてドックから発進していくユーリの宇宙戦艦。漏斗のような超空間を通過する独特の宇宙航行手段の表現。居並ぶ戦艦から艦載機が次々と発進し、艦砲射撃が交わる宇宙海戦。そして剣と剣の戦いや宇宙海賊まで登場する、多彩で波瀾万丈なアニメーションのアクション映像は、スペースオペラ的な醍醐味で充満している。
 技術的には2Dと3Dをハイブリッド化した最先端なもので、特に「光」と「色彩」を活かしたデジタルエフェクトは、ソエジマ監督らしいカラフルで豪華絢爛なものとなっている。宇宙の深淵へと旅立つ少年ユーリの冒険譚は、プロモーション終盤、ゲームではさらに後半へと続くはずの青年編での片鱗が入ることで、「宇宙の謎」に迫る壮大なロマンに成長物語の要素が加わることも予感させてくれる。
 こんな風に、短い時間ではありながら、想像力を存分にかきたてる要素をぎゅっと圧縮したアニメ映像なのである。

 高クオリティなアニメ映像の余韻の中で、ふと我に返って疑問に思うのは、「なぜこの作品ではアニメがプロモーション手段として選ばれたのか?」ということだ。
 これはなかなか興味深く考察可能なものである。まずゲーム媒体がDSという携帯機であること、ボイスも併用しているが、大半はテキストベースで語られる「宇宙創生の秘密」など銀河系レベルの巨大サイズの物語であること。つまり、「想像力喚起」を鍵とするゲームであることが、最大の理由であろう。つまり、ゲームの奥深くに内包されている雄大なイマジネーションの濃縮されたエッセンスを、前面に引き出しイマジネーションを喚起する触媒として、アニメという表現が選ばれたということではないだろうか。
 その文脈で次に注目すべきは、このゲームのジャンルが「RPG」だということだ。「ロール・プレイング」とは想像力を使って「役になりきる」ことが肝要である。そのためのチュートリアル的にアニメが機能するという見方もできるだろう。
 そして最後に強調したいのは、「宇宙戦艦もの」と「アニメ」の強い親和性だ。『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』などファンタジーRPGが「剣と魔法の世界」を描き、アイテムをゲットしてパーティーキャラを成長させるのに対し、『無限航路』では「スペースオペラの世界」を描き、「艦隊と戦艦」がキャラに代わる役割をはたす。モンスターとのバトルは艦隊戦に置き換わり、戦艦を組み立てて装備を厚くして成長させつつ、最後の大ボスに向かって旅を続けていくのが、このゲームの楽しみどころだ。
 あそこまで充実した宇宙戦艦デザイナーがそろったのは、そのカスタマイズのためである。そう……これはまさに『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河英雄伝説』のファン向け、戦艦バトルのあるスペースオペラの世界をRPGに置きかえたものと言える。かつて宇宙アニメにハマった世代には直撃と言えるゲームであるし、しかもその戦艦を「自分色」に染めながら銀河の旅を進めていけるというのは、一種の「夢の実現」とも言える。

 このように考えてみれば、プロモーションアニメを手がかりに総合的な世界観をプレイ前にまず脳内にたたきこみ、それを「想像力の触媒」にしつつゲームを楽しむという方法論は、非常に理にかなった遊び方だと思えてくる。もともとアニメもRPGも想像力に訴えかけるメディアだからこそ、その相乗効果にはおおいに期待できるものがある。
 ハード機器が高度に発達したからと言って、何もゲームすべてが重厚長大なにならなくてもいいだろう。DSなどのモバイル的な小型ゲームが見直されつつある昨今、壮大な「宇宙創生のロマン」などという巨大なイマジネーションを、「アニメ映像+テキスト+RPG」で喚起させるのは、非常にアリだと思う。
 こうしたメディアのクロスオーバーに、何かまだ充分に試されていない可能性、大きな鉱脈が秘められている気がする。ゲームとアニメの響きあいから、さらなる次世代の作品の発展もあるかもしれない。今後の展開に、要注目であろう。

 興味をもたれた方は、まずネットで公開中のアニメ版からご覧になってはいかがだろうか。そこから思ってもみなかった、壮大な銀河宇宙への旅立ちが始まるかもしれないのだから……。

/『無限航路』に見るゲームとアニメの相乗効果 (1)に戻る

『無限航路』 公式サイト /http://mugen.sega.jp/

「無限航路 Animated short film」

【メインスタッフ】
   
監督: ソエジマヤスフミ
アニメーションキャラクターデザイン: 追崎史敏

美術監督: 西野隆世(株式会社バンブー)
      竹田悠介(株式会社バンブー)
デザインワークス: 土屋亮真 
3D監督: 磯部兼士
       金子友昭
色彩設計: 内林裕美
撮影監督: 北村直樹
編集: 堀内隆

作曲・ 指揮:天野正道
演奏: 東京交響楽団

制作: GONZO / Production I.G
《animeanime》
【注目の記事】[PR]

特集