映画『東のエデン』の前に読みたい 『映画は撮ったことがない』 | アニメ!アニメ!

映画『東のエデン』の前に読みたい 『映画は撮ったことがない』

 宮崎駿、押井守、大友克洋・・・1980年代に日本のアニメをアニメというジャンルに成立させ、そして現在、この分野の巨匠としてみなされる才能たちである。そこから20年以上の時が流れ、今やこうした監督たちを引き継ぐ新たな才能が求められている。
 では、2009年以

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 宮崎駿、押井守、大友克洋・・・1980年代に日本のアニメをアニメというジャンルに成立させ、そして現在、この分野の巨匠としてみなされる才能たちである。そこから20年以上の時が流れ、今やこうした監督たちを引き継ぐ新たな才能が求められている。
 では、2009年以降、彼らを引き継ぐのは誰なのだろうか?アニメに関心があれば、気になる人も多い話題だ。おそらくその中には、『パプリカ』や『千年女優』など海外で幾つもの映画賞を重ねる今 敏や、劇場版『クレヨンしんちゃん』のシリーズや『河童のクゥと夏休み』の原恵一、そして『時をかける少女』で一気にアニメファン、映画ファンの心を捉えた細田守の名前が挙がるに違いない。

 しかし、このなかに神山健治の名前を並べる人も少なくないだろう。それは『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』で見せたドラマ性、揺るぎなく構築された近未来の舞台設定、『精霊の守り人』での豊かな物語、世界観の構築を見れば、納得の行くものだ。
 ところが神山健治は、先に挙げた3人と異なり長編劇場アニメを監督したことがない。アニメに限らず監督は、映画で評価されることで初めて地位を確固とする雰囲気のある映像の世界ではやや意外な経歴だ。

 この3月に上梓された神山健治自身による単行本『神山健治の映画は撮ったことがない~映画を撮る方法・試論』は、まさにこうした神山が独特の立場から発言する本だ。本のもとになったのは、雑誌「STUDIO VOICE」で連載された同名のエッセイである。
 今回はエッセイの内容をさらに掘り下げるかたちで、各論についてのインタビューを行う。さらに神山が師匠とする押井守、アニメ的な映画を撮るとして『嫌われ松子の一生』や『パコと魔法の絵本』の映画監督中島哲也との対談を挟む。

 実際は、神山健治は、この連載中にオムニバス映画『真・女立喰師列伝』のなかの一編『Dandelion 学食のマブ』を撮っている。また、2006年の『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の長編『Solid State Society』は劇場公開されてはいないが、その作りはまさに映画だった。(東京国際映画祭でスクリーン上映されている)
 にもかかわらず今回書籍化にあたりタイトルに、連載どおりの『映画は撮ったことがない』を残している。ここに、この本の意図する全てが詰まっている。

 『映画は撮ったことがない』の魅力は、そう主張する神山健治が本の中でまさに映画制作論を語っていることだ。映画が映画であるべき方法論、映画を制作する環境はいかに生まれるのか、そして企画から制作、ポストプロダクションまでだ。この本を読めば、アニメ、そして実写映画の制作に至る道がかなり具体的に見えてくるだろう。
 映画制作の指南書は数多い。あまたある映画指南書と異なるこの本の魅力は、映画を撮ったことがない(と主張する)神山がその映画の撮り方を語っていることに尽きる。

 ここで重要なのは実は神山が本質的に映画を撮ったことがあるのか、ないかではない。重要なのは映画を撮ることを望みつつ、そこに次第に近づいていく神山のアウトサイダーの視点なのだ。映像を撮る術を既に手に入れ、しかし映画制作に対してはアウトサイダーである特異な神山の位置がこの本を特長づける。
 様々な物事はその渦中にあるよりも、その外側から観たときのほうが的確な判断を下していることがよくある。今回の書籍は神山が「映画は撮ったことがない」という立場を標榜することで、映画を作る方法論がよりリアリティを持って浮き上がるのだ。

 そして本を読む僕らは神山のこれまでの作品の魅力が、しばしば映画的なものに裏付けられていることに気づくのだ。では、映画を撮ったことがないと言う、神山作品に立ち上がる映画的なものの正体は何なのか?
 それは映画とテレビ番組の違いとは何かというところまでに行き着く。そもそも映画とテレビに違いはあるのだろうかと?テレビ番組とは異なる映画というジャンルを成立させている要素は何なのか、この疑問の答はこの本の中にある。

 この2月に、神山健治が監督する完全オリジナルの劇場アニメ『東のエデン』の製作が発表された。作品はこの4月から放映が始まったテレビアニメシリーズを引き継ぐもので、今冬の公開を予定している。
 テレビ作品の物語、キャラクターを引き継ぐ必要はあるものの、名実ともに映画である。初の長編劇場映画を撮ることになる神山健治。その作品に大きな関心が集まることは必定だ。そのとき神山健治の考える映画の姿は、さらに明らかになるに違いない。
 そして今冬公開する劇場アニメ『東のエデン』を観る前に、この「神山健治の映画は撮ったことがない~映画を撮る方法・試論」は是非、読んでおきたい本だ。

『東のエデン』 公式サイト /http://www.juiz.jp

『神山健治の映画は撮ったことがない~映画を撮る方法・試論』
(STUDIO VOICE BOOKS)  INFASパブリケーションズ
1800円

《animeanime》
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