北米アニメ映像ビジネス 明暗分けた「AKIRA」と「らき☆すた」

レビュー そのほか

【『AKIRA』 売り切れの驚き】
 長期低落傾向が続くDVDやBlu-Ray Disc(BD)などの映像パッケージビジネスを中心に、相変わらず北米の日本アニメの業界には暗いニュースが続く。そうした中で久々に、明るいニュースが伝わってきた。
 2月19日付けのICv2のニュースによれば、2月24日に北米で発売される『AKIRA』のBlu-Ray版が、発売一週間前にして、出荷段階で完売したという。これを受けて発売元のバンダイグループは、セカンドプレスに入っており、3月10日以降入手可能になるとしている。

 ただし、この再プレスされた商品には、初版についていたスリップケースとブックレットはセットされないという。こうしたことからも『AKIRA』BDの出荷数が、事前の予想を大きく上回ったことは間違いないだろう。
 米国では小売店が映像パッケージを仕入れた後、いつでも商品を返品出来る仕組みのため人気のある商品は多めに仕入れる傾向がある。このため出荷数が必ずしも売上に直結するわけではないが、少なくとも小売店の判断では『AKIRA』は売れ筋タイトルというわけだ。

【DVDに続くヒット ファンは何度でも買う?】
 こうした『AKIRA』への注目は、ハリウッドのクリエイターにファンが多いなど、現在のアニメファンを越えた根強い作品の人気によるところが大きい。実際に、2月20日の米国アマゾン・ドットコムのBD総合チャートでは、『AKIRA』は総合ランキングの第10位につけており、その人気の広がりが感じられる。
 今回の北米版『AKIRA』BDの特徴は、2月20日に発売された日本版の『AKIRA』と同じマスターを利用したHDニューテレシネ&192kHz 24bitオーディオであることだ。単なる旧バージョンのBD化でなく、BDならではの商品にしたことが古いファンの心を惹きつけたとみられる。

 実は『AKIRA』は、2001年にパイオニア エンタテインメント(現ジェネオン エンタテインメント)がDVDを発売した際にも、その年の7月第4週のDVDの週間総合チャートにトップとなった記録がある。
 DVD化の際の売りはデジタル修正版だった。作品の初出は1989年だが、SF映画の古典としてクオリティが上がれば何度でも買う熱烈なファンを獲得していることが、成功の理由といえそうだ。

【日米同時発売への影響は?】
 今回の『AKIRA』はビジネス的にも重みがある。この商品が国内の映像パッケージ大手のバンダイビジュアルの世界戦略タイトルだからだ。
 商品は日米同時販売、マスターは日本語版、英語版同一のものを共有している。また、日本語と英語両方の吹き替えのほか、日本語、英語いずれもの字幕がON・OFF選択可能である。映像特典に劇場予告編や大友克洋による静止画の絵コンテ集が入っている。

 通常のアニメの映像パッケージは、各国ごとに異なるマスターを製作する。今回はこれを共用することで製造コストを抑えることが可能になっている。また、発売はバンダイビジュアル、販売は同じバンダイナムコグループのバンダイエンタテインメントだから、通常のライセン契約による販売よりもバンダイナムコグループが得る利益は大きい。
 『AKIRA』が特別なタイトルということもあるが、映像パッケージの世界同時発売に挑戦するバンダイビジュアルにとっては、大きな成果になったことは間違いないだろう。

【苦戦する『らき☆すた』】
 しかし、一方で、残念なニュースも同時に伝わっている。2月20日のアニメニュースネットワーク(ANN)の報道によれば、『らき☆すた』のDVD最終巻第6巻の発売が中止になった。第6巻は通常版のみとなる。ANNは、バンダイエンタテインメントの発言として「非常に残念だが『らき☆すた』の限定版の売上は期待値に届かなかった」と伝えている。
 『らき☆すた』は、北米でも売上が好調だった『涼宮ハルヒの憂鬱』に続く期待作として発売されていた。それだけに今回の限定版途中打ち切りは、現在の北米のアニメ業界におけるアニメ映像パッケージビジネスの厳しさを表している。特に単巻DVDの不振を示していそうだ。

 今回、期間を置いて相次いで報道された対照的なニュースだが、『AKIRA』BDと『らき☆すた』を分けるのは一体何だったのだろうか。それは購買者がアニメファン向けられているか、それ以外に向けられているかでないだろうか。
 『AKIRA』は現在のアニメファンコミニュティに特に人気があるように見えないから、購買層が映画ファンやSFファン、あるいは古いアニメファンなどアニメファンの外にいると考えられる。そして、『らき☆すた』は、おそらく北米では相当コアなアニメファンによってのみ認知されている作品であろう。

【アニメヒットタイトルは「映画」「ファミリー」「ゲーム」】
 こうしたアニメ映像パッケージの思わぬヒットが、近年、アニメファン以外の部分から生まれるケースが多い。大ヒットタイトルの『アフロサムライ』が、黒人やヒップホップのファンをターゲットにしていたのはよく知られた話である。
 また、世界で360万枚を販売した『FF7アドベントチルドレン』は、アニメファンというよりもゲームファンに注目された作品だ。メディアブラスターの作品として過去最高の売上になった『ボルトロン』(『百獣王ゴライオン』)の再販売は往年の子供たちの郷愁をターゲットにしている。
 このほか『パプリカ』は映画ファン向け、ジブリ作品や『ドラゴンボール』、『NARUTO』は、親が子供買ってあたえる傾向が強いファミリータイトルと言えるだろう。

 現在、北米でヒットする作品は、「映画作品」、「ファミリー向け」、「コンピュターゲームと何かのかたちで関連するもの」などである。
 こうした作品は他のアニメ映像パッケージに較べて価格が安いわけでなく、しばしば割高であることもある。日本のアニメは安くなければ売れないという、北米のアニメファンや業者の声とは必ずしも一致しない。むしろ、こうした作品の特長は、アニメファンをメインターゲットにしていないことが共通点である。

 北米のアニメの映像パッケージ市場は、ニッチな市場だからニッチな戦略を取らなければいけないとされることが多い。しかし、実際には、現在の北米のアニメ映像パッケージ市場の不振は、マーケット全体の不振というよりも、日本で言えば深夜アニメに代表されるマニア市場で強く表れている不振なのである。
 これが先週明らかになった、ベストバイのマイナータイトル切捨てにつながっているとも考えられる。米国のアニメ映像パッケージ市場で、唯一、経営が安定しているとされるVIZメディアが、近年、非アニメファン路線を強めていることは偶然でないだろう。
[数土直志]

参考サイト
ICv2 / http://www.icv2.com
/ Akira BD Sells Out
アニメニュースネットワーク(ANN) /http://www.animenewsnetwork.com/
/ Lucky Star 6 LE Cancellation Confirmed


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