世界的に名前の知られたアニメ監督である今敏氏が、3月29日、東京国際アニメフェア2008のマッドハウス出展ブースで単独トークイベントを行った。 トークは監督ひとりでおよそ45分間を話しきるもので、時間の短いミニイベントが多い東京国際アニメフェアのなかで内容の深さで異彩を放っていた。 しかし、こうした違和感を一番持ったのは、今監督自身だったかもしれない。監督は当初今回のトークイベントで考えていたのは、アニメ業界の現状をじっくりと語るものだったようだ。 ところが、会場のあまりの華やかな賑わいぶりに、そうした当初想定していたトークは相応しくないと、急遽取りやめた。そして、10年前、20年前では考えられなかった、こうしたアニメ業界の盛況に対する驚きと感慨を語った。 トークの内容の多くは、かつてのアニメ業界の姿と現在のアニメ業界の姿の違いや変化である。今監督は現在のアニメ業界には、外部からの投資資金が入ったり、企業の規模が大きくなったり、さらに業界志望者が高学歴化しているなど大きく変わりつつあると指摘する。 また、かつては地味な男性が多かったファンやクリエイターも、今はカラフルで世間とシンクロしているという。 アニメ業界は、かつては賃金は安いけれど自己の満足出来ることを貫ける聖地のような場所だったが、現在は大きく変わっていると語る。 フランクかつ際どい発言も次々に飛び出したトークイベントだったが、トーク全体を貫いていたのは、華やかな東京アニメフェアの会場だけではないアニメ制作の現実と足元を確かめる必要性である。 そうしたなかで、自身の作品についても語っている。例えば『妄想代理人』は、テレビシリーズを作ったことがないと言われるのも嫌で手がけた作品、『パプリカ』はその『妄想代理人』の劇場版のような位置づけにあるといった話である。 さらに自身がこれまで得意としてきた夢と現実の二重構造は、『パプリカ』でいったん終わりにするとも語った。 現在企画中の『夢みる機械』は、これまでのような物語の二重構造はない。物語の二重構造はないが、観ているほうに二重、三重にものを考えさせる作品になる。そして、これまでとは異なる客層を意識する。 しかし、だからと言ってこれまでのファンをがっかりする作品にもならない。劇場公開はまだしばらく先になるが、今敏監督の『夢みる機械』、かなり気になる作品になるだろう。マッドハウス /http://www.madhouse.co.jp/