JAM2007 今敏監督基調講演 レポート | アニメ!アニメ!

JAM2007 今敏監督基調講演 レポート

 新しいアニメビジネスの創出を目的とした「Japan Animation Contents Meeting 2007(JAM2007)」の開催にあたり、アニメ監督の今 敏さんが「クリエイターから見た日本のアニメーションの現状」をテーマに自身の作品製作経験を交えた基調講演を行った。

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 新しいアニメビジネスの創出を目的とした「Japan Animation Contents Meeting 2007(JAM2007)」の開催にあたり、アニメ監督の今 敏さんが「クリエイターから見た日本のアニメーションの現状」をテーマに自身の作品製作経験を交えた基調講演を行った。

 今監督は武蔵野美術大学在籍中に、漫画家としてデビューし、連載作品を発表後、『老人Z』で美術設定としてアニメ業界に参加、今年で18年になる。当時の様子と現在の様子とを比べると、アニメ業界は大きく様変わりしたと実感するという。今でこそ、スタッフに世間との繋がりを意識させているが、自身当時は全く考えていなかったと振り返る。
 初監督作品『パーフェクトブルー』では当時、アニメ業界で常識とされていた作画や美術の方法論が記号化されて、それに頼って作業している意識を変えようとしたという。記号を排して目で見たことを再現する手間隙をかけた作画を目指した。それを受け入れない人もいたが、賛同してくれるスタッフに恵まれて、制作することができたとする。
 『パーフェクトブルー』は海外の多くの映画祭で招待され、ファンからの反応を実感すると、創作において大きな励みになったそうである。それまで、海外での日本アニメブームは聞いていたが、自分が関係しているとは思っていなかったという。

 またヨーロッパの映画祭に出品するときに、実際に訪れてみると建物の大きさや廊下の広さが、自分が持っていた資料やイメージと違っており、自分の中にないものを描いてはいけないという意識につながったという。
 映画祭では、他の監督の大作のパイロット版に対するバイヤーの反応が鈍かったことがあったそうである。それは過去の外国を舞台にした作品であったために「イギリス人が作った日本の時代劇を見たいか?」と評されたという。これを伝え聞いた今監督は目から鱗が落ちるようで、このときの教訓が『千年女優』の制作に繋がった。

 その『千年女優』は毎日映画コンクール大藤信郎賞を受賞した。故大藤信郎さんは千代紙を素材としたアニメーションを多く作った。
 これは現在のデジタル上で行われるテクスチャを3DCGに貼り付ける作業との類似がみられ、時間を隔てて似たようなことをやっており不思議に感じるという。

 その次の『東京ゴッドファーザーズ』は、毎日映画コンクールアニメーション映画賞を受賞した。この作品は自身がリアル系の作品に向かいつつあることを反省して、漫画的な活力を回復させるように作った。 
 同作はニューヨークでプレミア上映されたが、その際のQ&Aで、「日本にもホームレスはいるのか」という質問があがった。このことは今監督にアニメーションでもリアリティをもって描けば、日本の実態を伝えることになりうることを実感させたという。

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 『パプリカ』は自分のわがままを押し通した作品である。前作が完成度を高め、隙のない作りを目指したのに対して、今作では突破力に絞ってイメージの強い映画できたことに満足しているという。
 皮肉なことに、制作現場での悩みは質の高いものを作るほど、人材不足になるという。それは、予算が限られているときにはリテイクの手間や費用を考えざるを得ないため、確実によい作業をしてくれるスタッフしか残せないという。もっと大きな経済的結果を残せれば事情は変わったかもしれないと、苦労を滲ませていた。

 スタッフ不足や新人不足については、制作プロセスを海外に出した結果、下積みを行う動画のポジションが空洞化し、新人が育たなくなったという報道には「話を分かりやすく単純化するために問題を削ぎ落としている」苦言を呈す。
 今監督は実際に現場で接していると、動画・原画の関係は以前とは変わってきており、動画を長く経験したからといって、必ずしも絵が上手くなるわけでもないという。能力がある若手が現れないのは、最初の低賃金状況に生き残っていられないためで、世間的なアニメの注目と低賃金の状態に格差があるためとする。現場にいる今監督としては待遇の底上げが悩みだという。

 監督は最後に今後の方向性を好物の蕎麦屋に例えて、「自分の味を分かってくれる職人的」を目指したいという。ただし、作品作りを続けていくためには拡大も必要であると認識しており、それは海外市場も同様である。
 ただ、全てが世界公開規模で平均的な味付けでなくともよいし、個性的なのが日本アニメの良さで、楽しんでくれるファンも多いと考えている。無理にメガヒットを狙うのではなく、品質を維持するには身の丈にあった節度で続けていければよいのではないかと、クリエイターとしての立場で講演を締めくくった。
【日詰明嘉】

Japan Animation Contents Meeting 2007(JAM2007)
/http://www.jam-anime.jp/
KON'STONE(今敏公式サイト)
/http://www1.parkcity.ne.jp/s-kon/
《animeanime》
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